きみと見た蒼

「空ってさ、いいよな」
 がぽつりと零した言葉。隣に座っていた銀時は思わず、は? と返す。
「ひたすら真っ青。かと思えば太陽と雲といろんな条件でいろんな表情、見せてくれるし」

 川近くの堤防の茂みに二人座り込みながら、何をするでなくただぼうっと空を見上げていたときのことだ。
 銀時の隣には、光が当たっても茶色く見えない、本当に真っ黒な髪を持った男が座っている。そのくせ瞳は空の色をすくい取って煮詰めたような――いや、そんな事をしても、この深い紺の色は出せまい。
 とにかく、上等な藍染め生地のような色をしている。

「あ、あの雲鳥っぽい」
 その彼が、すいと手を伸ばし雲を指差す。その指の先に銀時は視線を向け目を凝らすが、彼の言う『鳥っぽい雲』は見えない。
「……どこだよ」
「はあ? あそこだよあそこ――ああ、首もげた」
 もげたと少々物騒な事を口にする彼をよそに、白い雲が目立つ、色の薄い空にもう一度目を凝らす。
「もう分かんないな。上の方は風が強いのかな、雲の変化が速いや」
 つまらなさそうに腕を下ろし、後ろに倒れ込む。青々とした雑草らがほどよいクッションになっていた。すうと息を吸い込むと、心地の良い青葉の臭いが胸一杯に広がった。

「一度は雲が食えたらなーとかって思ったこと無い?」
 まだ雲で粘るに少しばかり呆れながら、そうだなと銀時は浅く記憶の棚を探る。
「あるだろ?」
 しつこく聞いてくるに、銀時は足下の雑草を引き抜きながら返す。
「ま、あると言えばあるけど」
「やっぱり。甘いモンに目がないお前の事、綿飴みたいーだとか思ったことは一度じゃないよなー」
 あはは、とひとり楽しそうに笑う。その笑い声があんまりにも楽しそうで、幸せそうで。引き抜いた雑草を遠くへ投げて、隣でごろんと横になったを見る。
「何決めつけてんだよ」
「違った?」
「……まあ確かに思ったことあるけどね、銀サンは」
 すると彼はやっぱり、と目を細めまた笑う。
 その笑顔に銀時もつられ、僅かに口元が緩んだ。

「そのうち雲が食べれる! とかいうカラクリ発明されないかなー」
「平賀のじいさんにでも頼んでみればいいじゃねーか」
「お、まじ? それいいね……」


up08/08/17  wrote2008/12/26

拍手再録。
タイトルお借りしてました→ 氷雨