しゃきん、しゃきんと鋏の音が静かに部屋に響いている。その音が鳴る度落ちるのは黒い髪だ。
は一人、自分以外誰もいない部屋で鏡に向かい髪を切っていた。
肩に着くほどの長さだった髪は、もう数年ほったらかしだった。さすがに前髪は目にはいるので切っていたが、あとは伸びるがまま。
この長さの分だけの出来事があった。時間の経過と共に変わっていくものも、変わらないものも。
そして様々な出会いも。別れも。決別も。
そう。これはケジメだ――。
線を引くための、作業。
しゃき、ん。
やや不揃いだが以前のように肩に着くようなことも無くなった。ずいぶんと、頭が軽い。
鏡に映る自分自身はいくらか女々しさが消え去ったように思える。
短くなった襟足をつまみ上げるが、もう結べるような長さではない。そうなると、あの紐達は暫く仕舞っておかないと。
もうすこし綺麗に揃えると、その出来映えを鏡に映しそして目を閉じる。
さよなら。
いろんなものに。いろんなひとに。
また戻ってくるときが来るかもしれないけれど。
服に付いた髪を払い、床に散らばった髪を一ヶ所に集めくず箱へ入れる。
ふと視界に鏡が入り、暫く見入ってしまう。髪を切っただけなのにずいぶんと印象が変わるものだと、は思う。
ぐしゃりと片手で髪をかき混ぜる。もう長い髪の感触はない。代わりにあるのは、肌に刺さるちくちくとした痛みだけ。
「……さよなら」
ぽつり、誰へともなく呟いた。
「さよなら、高杉」
また会う日まで。
ケジメをつけた。
自分自身と、そして彼に対する感情に。
up08/01/11 加筆修正 08/04/22