ちゃんと笑えてますように 3

 あたたかい。

 そう、それはまるで、最後の時に触れた高杉の手のぬくもりのような。

 あったかいけど、くらい。

 ってかここどこだ?

 ……ああ、俺死んだから、あの世かな。

 地獄かなー、やっぱり地獄かなー。

 そもそも、天国とか地獄ってあるんだろうか?

 ……。

 ……。

 もうどうでもいいや。そんなことを考えるのは面倒だ。

 俺のしてきたことは世間一般じゃ極悪人に値する行為だし。

 こうやって自分で認めてるのもおかしいけどさ。

 あったかい。きもちいい。

 このままずっといられたらいいな、なんて思ったりしてね。

 ははは、そんな訳ないのに。




























 声が聞こえる。

 どこから?

 分からない。

 でも、なんでだろ。

 どこかで――。

「……ん、だ……に……が!」

「……せぇ……お前……ろ」

「だ……! ど……おと……だろ」

 なんだか険悪な雰囲気?

 おいおいやめてくれよ、こっちは良い気分で死んでるんだからー。

「じ……な事……!」

 おおい、穏便に行こうぜ。

 するとぺたり、と額に何かが触った。

 何だ?

 ――でも、このぬくもりは。




「――――いい加減起きたらどうだ」

 え?

「いつまで寝てんだ」

 高杉?

「お前はまだ」


「死んじゃいねぇ」


 ぐんっとまるで何かに引っ張られた気がした。急速に視界が晴れる。俺の目が景色を見て脳で処理され――映像が、見える。
 天井と、俺の顔をのぞき込む二人の顔だ。銀時と、高杉。

「あ、れ」
 うまく回らない舌でそれだけ呟く。
!」
 一瞬にして顔が明るくなる銀時が、俺に抱きついてきた。しかし、抱きついてきた場所が悪かったのかずきりと腹部に激痛が走る。
「い、いで、いでででで」
 ギブギブギブ!
「銀時」
 すると高杉が銀時の首根っこを掴み俺から離した。
 い、いや……それよりも、何でこのふたりが?

……よかった」
 泣きそうな顔をして銀時が俺に言う。

「なん、で?」
 俺、死んだはず、じゃ。
「お前は死んじゃいねぇし、ここはあの世でもねぇ」
 考えを読まれたように高杉が俺に告げる。高杉を見上げる。――ああ、嘘ついてない目だ。
「で……でも、俺、あの時」

「高杉がもうホントに死にそうなお前を担いできたんだよ」
 ……まじ?
 それが顔に出たのか、銀時が頷いた。
「まじ」

 高杉が。あの過激派テロリストとして有名なあの高杉が! いっつも優しくない高杉が(なんか矛盾してる気もするがおいておく)!
 俺を、担いで。
 そうなると、俺が意識を失った後だろうか。血まみれ泥まみれべちゃべちゃだった俺を。

 視界に映る高杉は、とても静かに見えた。煙管を咥えてふかすわけでもなく、何かを企んでいるわけでもなく。
 さっきから視線が合ったまま離れない。
 ああ、もう。

「高杉」
 俺が一声。
 溜まる唾液を飲み込む。

「ありがとう」
 やっぱり、好きだわ。


 ふいと顔をそらされた。だけど、髪の合間から見える耳が赤くなってたことに、はたして銀時は気づいただろうか。
 俺は笑う。
 引きつった笑いじゃなくて、どうかちゃんと笑えてますように。


up08/03/18  加筆修正 08/04/22