あたたかい。
そう、それはまるで、最後の時に触れた高杉の手のぬくもりのような。
あったかいけど、くらい。
ってかここどこだ?
……ああ、俺死んだから、あの世かな。
地獄かなー、やっぱり地獄かなー。
そもそも、天国とか地獄ってあるんだろうか?
……。
……。
もうどうでもいいや。そんなことを考えるのは面倒だ。
俺のしてきたことは世間一般じゃ極悪人に値する行為だし。
こうやって自分で認めてるのもおかしいけどさ。
あったかい。きもちいい。
このままずっといられたらいいな、なんて思ったりしてね。
ははは、そんな訳ないのに。
声が聞こえる。
どこから?
分からない。
でも、なんでだろ。
どこかで――。
「……ん、だ……に……が!」
「……せぇ……お前……ろ」
「だ……! ど……おと……だろ」
なんだか険悪な雰囲気?
おいおいやめてくれよ、こっちは良い気分で死んでるんだからー。
「じ……な事……!」
おおい、穏便に行こうぜ。
するとぺたり、と額に何かが触った。
何だ?
――でも、このぬくもりは。
「――――いい加減起きたらどうだ」
え?
「いつまで寝てんだ」
高杉?
「お前はまだ」
「死んじゃいねぇ」
ぐんっとまるで何かに引っ張られた気がした。急速に視界が晴れる。俺の目が景色を見て脳で処理され――映像が、見える。
天井と、俺の顔をのぞき込む二人の顔だ。銀時と、高杉。
「あ、れ」
うまく回らない舌でそれだけ呟く。
「!」
一瞬にして顔が明るくなる銀時が、俺に抱きついてきた。しかし、抱きついてきた場所が悪かったのかずきりと腹部に激痛が走る。
「い、いで、いでででで」
ギブギブギブ!
「銀時」
すると高杉が銀時の首根っこを掴み俺から離した。
い、いや……それよりも、何でこのふたりが?
「……よかった」
泣きそうな顔をして銀時が俺に言う。
「なん、で?」
俺、死んだはず、じゃ。
「お前は死んじゃいねぇし、ここはあの世でもねぇ」
考えを読まれたように高杉が俺に告げる。高杉を見上げる。――ああ、嘘ついてない目だ。
「で……でも、俺、あの時」
「高杉がもうホントに死にそうなお前を担いできたんだよ」
……まじ?
それが顔に出たのか、銀時が頷いた。
「まじ」
高杉が。あの過激派テロリストとして有名なあの高杉が! いっつも優しくない高杉が(なんか矛盾してる気もするがおいておく)!
俺を、担いで。
そうなると、俺が意識を失った後だろうか。血まみれ泥まみれべちゃべちゃだった俺を。
視界に映る高杉は、とても静かに見えた。煙管を咥えてふかすわけでもなく、何かを企んでいるわけでもなく。
さっきから視線が合ったまま離れない。
ああ、もう。
「高杉」
俺が一声。
溜まる唾液を飲み込む。
「ありがとう」
やっぱり、好きだわ。
ふいと顔をそらされた。だけど、髪の合間から見える耳が赤くなってたことに、はたして銀時は気づいただろうか。
俺は笑う。
引きつった笑いじゃなくて、どうかちゃんと笑えてますように。
up08/03/18 加筆修正 08/04/22