昼間よりかはずいぶんと下がった気温の中、雨はしとしとと降り注ぐ。
 傘など差さず、は行きと同じように走っていた。ただ違ったのは、行きよりもずっと遙かに重たくなった心だった。
 あの家を出たまでは良かったのだ。しかし雨に濡れながら走っていると、少女の言葉が頭の中で延々と繰り返される。「どうしてころすの」と。
 その意味を俺に聞くのか! 今は自ら望んで殺戮に手を、身をも染めているこの俺に!


 少女の怯えながらもひたと見つめてくる瞳。無知であるからこその、あの瞳。
 あの瞳が、の中でささくれのようにちくちくと胸を痛めてくる。

 塀の上から砂利の道へ飛び降りた。しかし濡れていたからか、左足がすべり姿勢を崩しそうになる。慌てるでもなく、落ち着いて姿勢を整え立つ。
 額に張り付く前髪を乱暴に掻き上げ、胸にわだかまる、訳の分からないものに眉をひそめた。
「――くそったれ」
 話なんか聞かなければ良かった。後悔ばかりが、押し寄せる。


up08/02/20