「なかなか似合うじゃねぇか」 が脱衣所から出た時の、高杉の第一声がこれだ。 しばらく着流し系の服にお世話になっていなかったため、こんなんで良かっただろうかと心配しながらの登場だった。 案の定高杉は煙管をふかしていて、窓縁に肘をつきを見ている。 「そら、どうも」 適当に返すと、高杉は目を細めてふいと窓の外を見た。 まだ雪は降っているらしい。部屋の明かりを受け、雪が白く発光しているように見える。 足下には既に布団が敷かれていた。胡座をかくつもりでそこに膝を付いてしまうと、一気に今までの疲れが押し寄せてきた。 「あ、」 身体が重い。姿勢を戻す事も出来ずに、徐々に身体が斜めっていく。 「わ、」 重力に引きずられる。腕を突き出すが、力が入らない。 ぼふ。 倒れ込んだ布団に、ああ、布団気持ちいい――と思ったのもつかの間、あっという間にの意識は闇に沈んでいった。 の奇妙な行動を、高杉は横目でじっと見ていた。 短い会話をした後ふいに布団に膝を付いたかと思えば、突然前のめりになって布団に突っ伏す。そのあと起き上がるようなこともなく、肩が規則正しく上下しているのを見れば寝ているのだと分かった。 あの雪の中。何かに呼ばれたような気がして外を歩いていた。 自分でも酷く理解に苦しむ行動だったが、うずくまる人影を見たときには、この時間は無駄ではなかったなと一人笑っていた。 最後に見たときよりも若干背が伸び、真っ黒な髪も伸びている。不用心に、何も話さない自分に着いてきている所など昔と変わらない。 煙草盆に煙管の灰を落とし、それに煙管を立てかけ立ち上がる。掛け布団も掛けずに突っ伏すに近づき、しゃがみ込んだ。 まだ濡れている髪に触れれば、もう冷たくなっていた。伸びたら自分で切っていたのか、ややざんばらの髪は柔らかい。 一房を掴んで引っ張ってみるが身じろぎ一つしない。それが面白くなくて、高杉は立ち上がると再び窓のすぐ側に腰を下ろした。 盛大に布擦れの音が聞こえる。それに居心地の悪さを感じ、はふっと目を開けた。 開眼真っ先に飛び込んできたのは、浴衣を持ってきてくれた女中の顔だ。 「ああ、やっと目が覚めはった。布団あげるさかい、少し退いてくれますやろか?」 「……え、あ、はい」 まだ覚めきらない頭でなんとかそう返し、は身体を起こした。布団の上から退き浴衣の乱れを整えている最中、じいっと見つめられている視線を一つ感じる。 そろりとそちらへ視線を送れば、やはり案の定高杉が居た。煙の出ていない煙管を持て余している。 「おは、ようございます」 「死んだように寝てたなァ。何やっても起きやしねぇ」 な、何をやっても!? と、叫べば裏返っていただろう言葉をすんでの所で飲み込む。弄られたのも分からないほどの睡眠。 よほど長期間の宿無し生活が堪えていたのだろう、とは冷静に判断する。 けれど高杉からの視線が、どうにも自分を馬鹿にしているようなものにしか見えない。 「わ、悪かったなどうせ爆睡してたさ!」 思い切って開き直ってみると、高杉は肩を揺らした。どうやら笑っているらしい。 「〜〜〜〜!!」 うっわ、なんかすごいむかつく。何が悪い! 「まあまあ。あんまし弄らんといてくださいな、結構ウブなんやから」 と、布団を片付けていた女中が笑顔で茶々を入れてくる。 「ウブ!?」 ついには押さえきれず、はすっとんきょんな声を上げた。 もしかしてこれは、俺遊ばれてる!? up07/12/18 |