どこまでも遙か、彼方へ


いのちのうた 後日談

「で、結局の所一体何がどうしてこんな風になったんだね」
 今日こそはと黒鷹は変なところで気合いを入れていた。椅子に腰掛け、腕を組み足を組んでいる。ベッドの上で上半身を起こしているはそれを嫌そうな目で見ている。
 はあれから常人以上の回復力を見せ、事件から4日目の今では傷も塞がり部屋の中を歩き回れるほどに回復した。けれど倒れられたら困る、と皆が口を揃えて言うのだ。逆らえるわけもなく、外へ出たい衝動を抑えつつも大人しくベッドについている。
「そうは言われても……俺もはっきりとは」
 黒鷹の後ろには、果物の皮を剥いている玄冬もいた。ちなみに、その玄冬の側に花白も居る。千切れることなく繋がる果物の皮を花白は楽しそうに眺めていた。
「君は被害者じゃないか。なのに覚えていない?」
「覚えてる覚えてないの問題じゃなくて! ほんっとに、俺も何で襲われたかわかんないの!」
 あまりにもしつこく、は声を荒げる。

 その様子を横目で見ていた花白は、切り分けられた果物を一切れつまみ上げながら落胆のため息をつく。
「ごめんねー。うちんとこのお馬鹿が先走っちゃって。あそこまで堅物だとは思わなかった」
 つまみ上げた一切れを囓り、咀嚼する。程よい酸味と甘みが旨かった。
「確か彩城の警備、だったか?」
 使い終わったナイフを布巾で拭きながら、玄冬は花白に目をやった。
 は当時そこまでを見分ける事が出来なかったため、それは花白が玄冬に話したことだろう。その話に黒鷹が目を光らせている。
「うん。話聞いてると、もー馬鹿馬鹿しくて嫌になるね。確証もないのに敵国の密偵か何かだろう、って思っての行動だったらしいけど」
 残りの欠片を口に放り込む。
 均等に切り分けられた果物が並ぶ皿を持って玄冬が立ち上がる。もう一つ、と手を伸ばす花白の手をやんわり退けながら玄冬は眉を潜める。
「それは……勘違いも甚だしいな」
「全くだね! しつこく嫌がらせでもしてやりたい気分だ」
「馬鹿鳥の代わりってのも癪だけど、ちゃんと処分しといたから大丈夫」

 は玄冬から皿を受け取り、一切れをフォークで刺す。折角玄冬が切ってくれたというのに口に運ぶ気が失せてしまった。
「……俺もの凄く斬られ損な気がする」
 顔を顰め、はあ、とため息を一つ。
 ぽん、と肩に置かれた玄冬の手が異様に空しかった。

2009-10-18

灰色の子は基本不運的な立ち位置かと……

神澤 蒼