いつかを待つ


「カーペール」
 自身の前をやる気なさげに歩くカペルの肩に寄りかかると一度ぐっと沈み込んだが、すぐに持ち直す。ぱっとカペルが眉を寄せながらを見た。
「何? というか重いってば
「そりゃあ体重かけてるからね」
「そう言う事じゃなくて!」
 分かってるって。軽くぽんと肩を叩き腕をどける。

「ね、何話してたのさ?」
 ヴェスプレームの塔が、前方には聳え立っている。遙か頭上から伸びる鎖が、そこへと繋ぎ止められているのだ。
 カペルはむっと口をとがらせる。先ほどエドアルドにきつく迫られた事を引き摺っているのだろう。
も聞くの?」
「そりゃあ気になるって。まあエドは確かに過剰で過敏でどうしようもないとは思うけど……」
 ちらとは、前方でシグムントのきっちり左斜め後ろ3歩を歩くエドアルドを見た。聞こえていたら大目玉だ。――どうやら聞こえていないようだったが。しかし近くのユージーンには聞こえていたらしく、小さく苦笑される。ついでに、立てた人差し指を唇の前に持ってゆき静かに窘められた。

「で、なんだったの?」
「んー……」
 言いづらそうにカペルが頬を掻く。しばらく視線をあちこちに彷徨わせたが、を見ると先ほどのユージーンを真似てか右の人差し指を立てて口の前に持ってきた。
「秘密」
「そんなに人に言えない恥ずかしいことを? いやシグムントさんがまさかそんなことは……」
「いやいやいや、そんなことはなかったけどね! 大切なことだからってこと!」
 カペルが声を張り上げた為前まで聞こえてしまったらしい。眼光鋭く、エドアルドがじろりとふたりを見る。は慣れた様子で肩をすくめた。
「……大声出すなって」
「……ごめん」
 話の中心人物であるシグムントは、振り返ることもなく黙々と歩いていた。


 あともう少し、というところでシグムントが足を止めた。彼が止まれば後ろについていたエドアルドも止まり、アーヤも止まり、つまり一行が歩みを止める。
 どうかしたのかとカペルが首をかしげる一方、シグムントは足下の砂利を鳴らしながら後方へと身体を向けた。
「先に行っておけ」
 恐らくその言葉はエドアルドに向けて告げられたのだろう。そのままシグムントは今し方歩いてきた道を戻り始めた。事態を理解できていないエドアルドがシグムントに駆け寄る。
「シグムント様、」
「先に行っていろ」
 同じような言葉でもう一度。はい、と渋々エドアルドが身体の向きを変え歩いていく。一行の動きが再開され、とカペルも歩き出す。が、どうやらシグムントはこちらぬ向かって歩いている。


「あ、はい」
「少し残れ」
「了解です。――あ、カペル先行ってて」
 うん、と小さくカペルは返答した。心配からか一度振り返ったが、空いた距離を詰めるために駆けていった。

 視界の端に映るヴェスプレームの塔が静かに威圧してくる。一度鎖の解放に失敗しているため、メンバーには緊張が隠せない。あの塔が視界に入るようになってからというもの、ぴりぴりとした空気がまとわりつく。
 塔に視線をやり、一つ息を吐いてはシグムントを見た。
「何かご用で?」
 シグムントは頷く。
「お前に頼みがある」
「頼み、すか」
「お前にしか頼めないことだ」
 その言葉には小さく目を見開いた。まさかこの人がこんなことを言うなんて!
「エ、エドではなくて?」
 再び頷いて肯定する。
「まだあいつには任せられない」
 まだ、ということはそのうち出来るようになる可能性はあるわけですね、と心の中で呟く。

 シグムントが握り拳をに向ける。その拳の下に手を差し出すと、彼は拳を解いた。
 ころり、との手に落ちたのは何の装飾もない、銀の指輪だった。それを見ての赤い瞳が細められる。
「カペルを支えてやってくれないか」
 手元の指輪とシグムントを交互に見る。唐突な内容にはシグムントを見るばかりだ。
「――その、理由は?」
「今は話せん」
「この塔の鎖を解放することが出来たら聞かせてもらえると?」
「わからん。時が来れば」

 何故彼がカペルを気にかけるのかずっと気になっていた。容姿が同じというだけではなく、何かがあるとが感じていた。――残念ながら推測すればするほど確定要素ばかりが薄くなるけれど。
 確かにこれはエドアルドには頼めないなと思った。激しくカペルを毛嫌いするエドアルドにこんな事を頼みでもしたら、間違いなく今以上の厳しい状況になることは必死だろう。

「分かりました。でも、必ずですよ。必ず、絶対、この理由を聞かせてください」
 忘れないでください。
 そうシグムントに念を押す。シグムントは口元を緩め、小さくふっと笑った。
「ああ」
 滅多に見ない笑みには静かに固まった。その緊張はすぐに解けたが、笑みの中にうっすら滲んだなにかを確かめる前にシグムントはきびすを返した。
「随分先に行かせてしまったな。追いつくぞ、
「っ、はいっ」



タイトルお借りしました → loca


up09/02/23

先を書くかどうかは分からない。
これからあれこれ在るんですが、激しくザ☆俺設定。
ともかくシグ様←←←主人公とかね!フッフウ!