ハレルヤを歌おう

*突然ですがセラゲでシグムントと再会後です


 日が落ち夜空に星達が姿を現し始めた頃、はシグムントの部屋を訪れた。2回ノックした後何も反応が無かったため、もう一度と腕を上げた所で中から短く「入れ」と言葉がかかった。
「遅くにすいません」
 へこりと頭を下げながらは部屋に入る。部屋に明かりは付いていなかったが、見えない暗さではなく辛うじて家具等の輪郭が分かる程度だったが、歩くには十分だった。外からの光でぼんやりと照らされた室内、シグムントは鎧を脱ぎ窓辺の椅子に腰掛けていた。
「どうした」
「お話が。よかったですか?」
 シグムントは頷き立ち上がろうと腰を浮かすが、がそのままで、と制止させた。手近にあったスツールを抱えて窓辺まで持って行き、はそれに腰掛ける。思いの外、窓の外の景色が綺麗だった。砂をまいたように小さな光が暗い空に輝いている。

 シグムントへと視線を向けると彼は無表情で――いや、どことなく哀愁の雰囲気を纏っていた。
「すまなかった」
 ぽつり、と呟くようにして突然紡がれた言葉には首をかしげる。謝られる理由が分からず聞き返した。
「何が……ですか?」
「理由を話す、と言っていただろう」
 一瞬訳が分からなかった。言葉を頭に入れて記憶の棚を引っかき回し、場面を思い出してようやく理解した。
「あ……ああ! ヴェスプレームの塔の……そう、その事で来たんです俺」
 服の下に隠れていた指輪を取り出す。首からさがる細いチェーンが輪の中に通っており、ネックレスのペンダントトップになっていた。チェーンの金具を外し、チェーンを抜く。掌に乗るそれを懐かしむように眺めた後、はシグムントへと差し出した。
「これ、お返しします」
 シグムントはの掌に転がる何の装飾もない、ただ銀を細長くしただけの指輪を見つめた。彼がヴェスプレームの塔に突入する前、頼み事と共にに渡した物に間違いなかった。大切に扱っていたのだろう、流石に細かな傷は入っているが大きな損傷はない。じいと見つめた後、シグムントは緩く首を振る。
「お前が持っていればいい」
「……いいんですか?」
「構わない」
 言葉の少ない返答には戸惑ったが、無理矢理返してもシグムントの事であるから頑として受け取らないだろう。はチェーンと共にポケットへとしまい込んだ。

「先ほどの、理由の話についてだが」
 シグムントが切り出した。視線は窓の外へ向いていた。
「……血の繋がりとは恐ろしいものだな」
「ああ……親子、ですもんね。雰囲気さえ違うけれど、本当にカペルと良く似てると思います」
「外見だけでなく、どうも内面も私に似たらしい。――自分の意志を貫くことは大切だと思っているが、それが時に悲劇を招く事もある」
 緩く広げた自らの右手に視線を落とすシグムントの目は遠くを見ているようだった。ああ、とは思う。そういえばスバル女皇から聞いた覚えがあった。カサンドラの滅亡はほぼヴォルスングが招いたようなもの。その記憶をそのまま持つシグムントはその時の選択を後悔しているのだろうか。内面も似ているからこそ、あれはそれ故の頼み事だったのだろう。

 英雄と呼ばれていても、所詮シグムントも人の子だった。息子第一に考えもするし、過去の事で苦悩もするのだ。そんな彼に、は急に親近感を覚えた。
「――カペルは、そりゃあ一時期すごかったですけど……。結局は自分の足で歩いていったんですよ。俺の出る場面なんてなかった。支えてくれるいい仲間にも恵まれたし」
 俺なんか沢山励まされたりしましたよ、と自嘲気味に呟く。目を伏せて俯いた時、シグムントが手を項垂れたの頭に載せゆっくりと撫でる。その優しさには見知らぬ父を思い、目を閉じた。言葉より行動で示すとは何とも彼らしいと、目を閉じた先に見える柔らかな暗闇で思った。

 シグムントの手が離れると、は瞼を上げた。闇に慣れた目は、部屋に入ったときよりも鮮明に物の姿を捕らえている。顔を上げた先のシグムントは、僅かに微笑んでいるように見えた。あの日も、そういえばこんな風に微笑んでいたのだと思うと見ているのが辛くなった。あの表情は最期と連結してしまう。慌てて話題を探し、口から出るままシグムントに質問を投げかける。
「な……なんで、俺だったん、ですか?」
「頼んだのが、か」
「は、い。ユージンさんとか、付き合い長いのに……」
「お前なら大丈夫だろうと思った」
 もっと明確な理由が返ってくるかと思いきや、これでは彼のカンのようなものではないか! あっさりと返された返答に、は気が抜ける。
 そんなにシグムントは柔らかな微笑みを止め、自信に満ちた笑みに口の端を上げる。
「面倒見のいい所はフリョーズに似たな、
 再び意味が分からずは固まった。フリョーズはヴォルスングの、つまり彼の妻。その彼女に似ていると言われるということは。
「……え?」
 自身、とても間抜けな声が出たと思った。シグムントに限ってこんな達の悪い冗談を、と真っ白になった頭の中で呟く。嘘でしょう、と思った言葉がの口から出ていた。
「知らなかったのか?」
 知ってるばかり、というようにシグムントが尋ねてくる。
「し、知らなかったも何も……ええええ!?」
「すっかりスバルが話したのかと思っていたが。……そうか、知らないのか」
「え、あ、う、ほ、ほんと……なんです、か!?」
「嘘を言ってどうする?」
「えええええええ!!!」



「うるさい! 何シグムント様の部屋で騒いでるんだお前は!」



タイトルお借りしました → メノウメロウ

up10/04/11

*以下、余談と言う名の俺設定。
 主人公、カペルと双子。どっちが兄かとか分からない。日食の所為で月印をもてなくなった上、双子と言う事で不吉さが倍増。双子と言う事はほぼ周りに知らされないまま、赤子は流される(流されるんでした…よね)。
 もちろんヴォルスングはそのことを知っているので、記憶が戻ってから二人が一緒にいるのを見て嬉しがったり不思議がったり。どちらにせよ親馬鹿ということで。
 さらに似てない双子です。瞳は赤でカペルとシグムントと同じですが、髪は赤茶というよりは焦げ茶で黒め。
 まさか当人も血縁だとは思わずここまできました、という。ね!(何