十歳前後の少年の後ろを、彼よりか一つ二つ年の違うであろうやや小さな少年がいた。二人は小さな手を繋ぎ夕暮れの中歩いている。
 小さな少年が何事かを言えば、少年は笑顔でそれに答えていた。

 ああ、嫌な思い出だ。
 こんな事になるのならあんな思い出なんか持ちたくなかった。
 だって辛くなるだけだ。


 重ねられた手の温もりがいつかの温もりと重なる。
(もう、だめだ)
 パニッシャーを持つ手から力が抜ける。そして足からも。
「っ、おい」
 かろうじてウルフウッドが重ねていた手を引っ張り上げ、ぺたりと砂の地面に腰が着くことは免れた。しかしの手から離れたパニッシャーは地面に落ち、あたりに盛大な砂煙を撒き散らす。
「は、ははは、はは……」
 の乾いた笑いにウルフウッドは顔をしかめた。の右手が上がり、自身の顔を覆う。

「……ニコ兄、は、倒せないや」

 だってほら、触れ合う手からの温もりだけでこんなにも胸が熱くなる。
 あの震えは自らの手で"家族"を傷つけること恐れた本心が生み出していたのだろう。けれどそれを全否定する体がある。
 瞑った瞼の裏に映るのは過去。あの場所。
 風の音と服に叩きつけられる音しか聞こえないはずの耳。けれど聞こえるのは楽しそうな子ども達の声。

 自分は何を考えているのだろう。そもそもこれはこちらから仕掛けた戦闘ではないか。あそこでもっと耐えれば良かったのに。
 はここ数年陥ったことのないような自己嫌悪に苛まれていった。


 ぽつりと呟いた言葉を最後に動きを止めたの掴んだ腕と頭とを交互に見ながらウルフウッドは、さてどうしたものかと思う。今のに先ほどまでの勢いは欠片もない。
 力の抜けきった体をゆっくり地に下ろし腕を放す。ウルフウッドはその場にしゃがみ込み、ふうと小さく息を吐く。
「しゃあないなあ」
 腕を伸ばし、灰色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


up08/02/09