世界は、なおも変わらず回り続けているように思えた。けれど確実に、今までとは違う方へと人々を回していた。 フィフス・ムーンが起こった。空に浮かぶ月に大穴があいた。 人々は驚愕しそして恐怖に苛まれ、地上と月との途方もない距離を貫いてみせた人物を畏怖した。 ――化け物じゃないか―― 密やかに囁かれる声。 街は瓦礫と化している。生き残った人々がその瓦礫の上に呆然と立ち尽くす光景が、の無感情な瞳に映る。 彼がジェネオラ・ロックに着いた時には何かが月を穿った日から数日経っていた。今まで世話になっていた情報屋の商品が、今回は大外れだったのだ。気が付きすぐに引き返したが、時すでに遅く。そのことに幾らかの苛立ちを感じながら、瓦礫を歩いていく。 見上げた大岩は上の方がごっそりと、まるで馬鹿でかい銃創のように削り取られ、プラントが籠もる電球のような容れ物はひとつ、壊れている。ひでぇもんだ。は小さく呟いた。 何か残っていないかとうろうろしていたが、やはり何も見つからず。この様子だと、食事をするところも寝るところもなさそうだった。今夜の寝床はどこにしようと考えながら、はパニッシャーを背負い直す。 次はどこに行こう。それより、先にあの情報屋を見つけて一発締めてやらなければ。 「ちょ……待て、待て、これやべえって!」 カンカンと照りつける太陽。だらだらと汗ばかりが顎を伝う。 あたりは見渡す限りの、砂漠。 は手探りで水筒を取り出すが、その軽さに眉をひそめる。嫌な感じだと思いながらそれを振ると、僅かな水音さえしなかった。からからと金具が揺れる。 ――目の前が暗くなりそうだ。 そういえば、もう数日砂漠を歩いている。靴の中は砂でじゃりじゃりだ。着ているコートも、きっとポケットに手を突っ込めばたんまりと砂が入り込んでいるに違いない。パニッシャーには……入っていないと思いたかった。掃除が面倒だ。 ともかく砂漠に入ってから最初の数日は良かった。食料も水もあった。けれどの見込みが甘く、早々に食料が消え、ついには水も消えた。 「こ、れ、死亡フラグ……立ってるよ、俺」 身体を改造されているとは言え、飢えはどうしようもない。重い足を前に出す。ぐらり、視界が揺れた。 「お、」 慌てて片足を出そうとするが遅く。顔面から砂にダイブしていた。 灼けた砂が頬を容赦なく痛めつけてくる。横を向いて口の中の砂を吐き出す。が、全て吐き出せずじゃりじゃり砂を噛んでしまった。 (喉、乾いた) 砂が痛いほど熱くて立ち上がろうとしたが、一度倒れてしまうと立ち上がるのは辛かった。立ち上がろうと引いた足が砂を蹴る。這いつくばる自分を惨めに思う。 「主よ、」 砂をざりざり噛みつつ呟く。 ああ、こんな時にだけ都合良く祈ることをお許しください。 できたら、しにたくないん です。 ああ、なんだこのデジャブは。 up2009/04/24 |