「マスター」
ベッドに横になり、規則正しい寝息をたてているマスター。いつもはきちんと整えられている髪が、昨晩髪が乾かないまま寝た所為かぐしゃぐしゃになっている。
時計の短い針が7を指している。今日は予定があると言っていたから寝坊は厳禁だ。
「マスター……。起きてください、時間ですよ」
肩を掴んで揺さぶるけれど小さく唸るだけ。続けて揺すっていると、腕が上がった。
「あ、マス」
ごっ。
――起きたと思ったら手を払うついでに殴られました。いや、たぶんマスターは殴ったんじゃなくて、俺の腕を払おうとしたら結果的にこうなったんだと思うけれど。
うう、マスター、ほんとに起きてください……。寝坊しますよ!
さっきの衝撃での障害は無し。いやいや、そんなことよりマスター!
「マスター、マスター! 今日何か用事があるって言ってたじゃないですか。起きてくださいよー」
攻撃を警戒しつつ、もう一度揺さぶる。そこでようやくマスターは唸った。
「んー……カイト、あと……1時間……」
「5分じゃないんですね。ってそうじゃなくて! 起きてください!」
俺涙目ですよ!
するとマスターが顔を上げた。俺を見たと思うと、首に腕を回された。
「あ、え」
「うるさい」
そのままぐいっとまわされる。即ち、マスターの寝るベッドに頭から突っ込むかたちに。顔面にマットがぶつかって、息が! じゃなくて、顔が!
「〜〜〜〜〜!!???」
「あはははは、カイトが唸ってるー」
俺を押さえる腕は緩めないままマスターがずいぶんはっきりした声で、のほほんと楽しそうに言う。いや、ちょ、マスタ……。
唐突にマスターの腕から力が抜ける。それが分かったや否や俺が両腕を突っ張って顔をマットから離す。
「何するんですかマスター!」
「んー? いやー、必死になってるお前見てると面白くって、つい腕が」
身体を起こしながら髪を触るのはいつもの癖。毎度踊らされているような気がするのは間違いじゃないと思う。
寝起きに、俺を弄って目を覚まそうとする。ちょっとなかなか嫌ではあるけれど、マスターの柔らかな、見ているとこっちまで笑顔になるあの表情を見れるからまあいいかなー、とか思ってたり、思ってなかったり。
「と言うか用事あるんでしょう! 早く支度しなくて良いんですかっ」
「おっと、やばいやばい」
「いじってて楽しいですか? 俺」
ベッドからおりて着替え始めるマスターを数歩引いたところから見ながら、少しふてくされ気味に声を掛けた。
するとマスターは、モノクロでチェック柄のシャツに袖を通しながら俺の方を見た。
「楽しいよ。ああ、勘違いするなよ、これ、俺なりの愛情表現だから」
up08/07/30
やっちゃった。このあと真っ赤になるカイト君。