随分と、瞼が重い。
日付が変わってそう時間が経っているわけでもなかったが、頭がぼうとして自分が何をしているのか分からなくなる。極度の眠気がを襲っていた。
意味も無くサイトを巡り、時間が流れていく。
何でこんなにも眠いのだろうと自問してみるが、昨日はいつもよりよく寝た方だ。肉体労働をしたわけでもないし、精神的なダメージを受けた訳でもない。
(眠い)
けれど、眠りたくない。
相反する思想に訳が分からなくなる。
薄暗い部屋の中、ディスプレイの灯りが煌々とを照らす。
「マスター」
普段よりも気持ちゆっくりとした口調で、カイトが呼びかける。先ほどまでスリープ状態だったはずだが、今はディスプレイの明るさに目を瞬かせている。
「まだ、起きてるんですか」
「うん」
は姿勢も視線も変えずに生返事を返す。カイトは機械的な光で浮かび上がるの横顔に視線を注ぎ、欠伸をかみ殺す。
「また終わってないんですね、分かります」
ふん、とが鼻で笑う。
「違うよ。締め切りに追われてはいませーん」
「夜更かしですか? 今節電がブームって知ってますか?」
「ブームはともかく。いいだろ別に」
足音がすぐそばで止まる。は左側に立ったカイトを見上げ、首をかしげる。顔をみたカイトが眉を潜め、ため息をつく。
「眠そうな顔してますよ」
「うん、眠いよ」
「じゃあ寝て下さいよ」
「寝たくないって言ったら怒る?」
子供のような口調ではふざけた。おこりませんよ、との予想に反してカイトは至って平然と返してきた。
重い瞼を押し上げて見上げるカイトは優しい顔をしていた。ふいに彼の腕が上がって、頭を掻き抱かれる。そのまま、あやすようにぽんぽんと背中を叩かれた。
は怪訝そうな顔をするが、カイトには見えない。抵抗するにも、思考が眠気に浸食されていた。
一定の感覚で刻まれるリズムに、知らずのうちに瞼が閉じる。心拍のように優しく響く音は何よりも子守歌だった。そう経たずに、うたた寝のように意識が落ちたかと思えば浮上して、うつらうつらと船をこぎ始める。
「もー大人しく寝ちゃいましょうよ。あとはやっときますから」
「や……だ」
なぜこうまでして抵抗したがるのがカイトはもちろん、自身も分からなかった。
「はいはい」
カイトは手を止めない。ぽん、ぽん、ぽん。の身体から伝わる鼓動を、そのまま振動にして返している。
やがて完全に体重が預けられるのが分かり、胸元から静かな寝息が聞こえるようになった。
片腕を伸ばしてパソコンをシャットダウンし、ディスプレイの電源を落とす。を起こさないようゆっくり横抱きで持ち上げる。そのままベッドへ移動、横たえた。
こんなにこの人は軽かっただろうかとカイトは不思議がったが、思えばを抱き上げるなど今まで数えるぐらいしかしていなかった。
「……そんなムキにならなくてもいいのに」
こういうときだけはお子様ですねマスター。ふふっと笑い声を漏らして、カイトは薄いタオルケットをに掛ける。
「お休みなさいマスター、良い夢を」
腰を曲げ、そっと瞼に口付けた。
up11/08/24
気持ち悪くなるぐらい眠いのに、寝たくない不思議。
Title:loca