石畳の道を太陽が照らす。日々強くなっていく光に気温はじわじわと上がる一方だ。それを喜ぶ者が多かったが、やはり嘆く者もいた。
「あ……つい」
ぐったりとテーブルに突っ伏すイヴェールがいた。珍しく隠れ家は多くの者が出払い、とイヴェールのふたりきり。は彼の隣に座り、毎度の事ながら不思議そうに首をかしげる。
「確かに今日はいつもよりずいぶん気温高いけど……そこまで?」
は手にした薄い本で、イヴェールにそよそよと風を送っている。白いシャツの袖をぎりぎりまで捲ったイヴェールは、ひとつ頷く。それを見たセンカは、暑がりもここまで来ると病気だなと思う。
確かに長袖で外を歩くと直射日光も相まってうっすら汗をかいてしまうほどの素晴らしい陽気だ。だがまだうだるような、とまではいかない。隠れ家は思いの外風通りがよいので、窓を開けていれば風が緩やかに吹き込んでくる。そのお陰で随分と暑さは和らいでいるのだが、それでもイヴェールは「暑い」と連呼する。
「何か飲むものでも持ってこようか」
「いい」
椅子から腰を浮かせたが、ぱっと伸びてきた腕に服を掴まれ止められる。渋々椅子に腰を下ろす。
「暑いんじゃないの?」
「あつい」
イヴェールは首を動かしてを見る。気怠げな表情を見ると、暑いと連呼するのは本当なのだろう。持っていた本をテーブルに置くと、うっすらとかいた汗で張り付いた彼の前髪を除けてやる。髪を梳かれる感触にイヴェールは青い目を細めた。
暫くはイヴェールの緩くウェーブする髪を手櫛で梳いていた。す、と彼の腕が上がる。伸ばしていた手を取られると口元へ持って行かれる。何を、と思ったときには指先へ唇を落としていた。
「イ、ヴェ……」
羞恥にぱっと目元を赤くしてが呟く。一度離れたかと思うと、すぐに落とされる。満足したのかイヴェールが顔を上げた。
「何?」
やや怠そうではあったが、それでもイヴェールどこか意地悪な表情を浮かべて微笑んでいた。その微笑みには咄嗟に視線を反らす。
「な、なん、でも」
「どもってる」
くすりと笑われ、センカは一層赤くなる。
身体を起こしたイヴェールがの前髪をさらりと撫でていく。薄い青の瞳が遠慮がちにイヴェールを見た。
「……何すんだよう」
「いいじゃないか。今は誰も、いないよ」
「……知ってるよ」
そっと頬に手を添えられやんわりと正面を向かされた。愛おしそうに真っ直ぐ見つめてくるイヴェールの目は、いつまで経っても慣れることがなさそうだとセンカは思う。どうも気恥ずかしい。
「好きだよ」
イヴェールは椅子から立ち上がると、手の添えられていない頬へと軽くキスを落とす。ちゅ、と音がしては恥ずかしさに思わず目を閉じた。
「……知って、る」
音もなく笑う気配がする。そっと瞼を上げると、吐息が感じられるほどの距離にイヴェールがいた。はっとなって息を詰めそうになるが、その前に今後は唇にキス。咄嗟に目を閉じる。触れるだけの唇は自分のものよりもいくらか暖かかった。
そっと離れると、ゆるり目を開ける。まだ近距離でイヴェールは微笑んでいた。
(まつげ、長)
ふと場違いなことを考えていると、ふいに抱きしめられる。
「暑いんじゃなかった、のか」
「暑いよ」
「……じゃあ離れろよ」
頬をくすぐる彼の銀髪がくすぐったい。耳のすぐ近くでくすりと笑う声が聞こえた。その声さえ耳に心地よく、くすぐったい。
「いやあ、あんまり可愛かったから」
再びは顔を赤く染めることになる。その様子を横目で盗み見たイヴェールは、微笑みを浮かべそっと腕に力を込めた。
up 2010/01/05 wrote 2009/06/07
いちゃいちゃ。書いててこっちが恥ずかしいわッ