丘の上は風が強かった。キトンの上に羽織ったマント代わりの布が、大きくはためく。
「ああ」
に背を向け、エレフは丘の上からの景色を見ていた。銀と紫の、まるで月と闇の色のような髪が強い風になぶられる。その様子を見て、はやはりきれいだなと思う。
「必ず――必ず、アルカディアに報復を。ミーシャの、敵を!」
静かだが強く、怒りに燃えた声でエレフは誓いを立てた。紫の瞳が鋭く、遙か地平線を睨みつけている。
全ては自らの半身を亡き者にした者への強い執念。強い強い怨みと怒りが、彼を駆り立てていた。
ふたりは今まで行動を共にした仲であった。
には物心ついたときから肉親はおらず、独り身であった。だから彼のように、心の底から大切だと思える人がいるのを酷く羨ましく思っていた。今彼のこころを蝕んでいる、どす黒い感情でさえ羨ましかった。
心の支えがあるだけで、生きる意味が生まれる。だからは同じ奴隷であり――けれどは行動を起こさず、エレフは行動を起こした――身近だった彼と共に今までを歩んできた。
生きる意味を見つけるために行動を共にしていたようなものだったが、いつの間にか彼の存在が生きる意味になっていた。彼が喜べば自分も嬉しかった。
あんまりにも彼の持つ感情がまっすぐで眩しくて。自分は必要ないかもしれないけれど、護りたいと思うように、なったていた。
「エレフ」
名前を呼ぶが、彼はこちらを見ない。強い決意の滲む背中は逆光を受け、場違いなほどに眩しい。
「俺はお前についていくよ」
決心を込めて言う。気のせいかもしれなかったが、にはエレフが小さく頷いたように見えた。
「アルカディアに、報復を」
ばさりと、マントが風に強くたなびいた。
エレフ。
お前のその望みを叶えるために、俺がお前の前に立ち阻む障害を消してやる。
お前が俺の、生きる全てだ。
up 2008/12/25
あの事件後のエレフはとんでもないほど敵に対する執着というか、絶対復讐がこびり付いてて恐ろしい事になっていると思って。
それをどっか恐怖を抱きながら、それでもついていく主人公。
エレフに対する思いは一途より綺麗じゃなくて、でも執着より淀んでない感じ?