どうか明日も

 ぼろく薄い毛布一枚だけでは、しんしんと迫ってくる夜の寒さを耐えることはできない。この厳しい寒さのため、命を落とす者も少なくなかった。
 牢獄のような何もない、しかし人ばかりが押し込められた部屋の隅に3人はいた。やはり寒さのため小さく震えながら、一枚の毛布を分け合っている。

「もっと寄れよオリオン、毛布足りねぇよ!」
「うるさいなあ、お前こそくっつけよ」
「十分くっついてるってのっ」
 自分を挟んで言い合う2人に、は足を引き寄せる。
「……かわろうか?」
 毛布の長さが足りず体全てが収まらない2人に、おどおどしながら尋ねる。すると2人は同じタイミングで、同じ言葉を言って見せた。
「「いい」」
「そ、そう?」
 その即答ぶりには申し訳なくなって、せめて少しでも毛布が行き渡るようにとできる限り身を縮めた。

 あまりに労働が厳しいときや幾らか体調を崩しかけたときなど、決まってエレフとオリオンは問答無用でこういう事をする。
 子どもというハンデがあるというのに、さらに体の弱さが相まっては時折体調を崩した。もう随分奴隷としての生活が長く、2人との関わりも長くなる。いつからかそれを見極められる様になった2人は、治療はできないからせめて寒さだけは。と、いつの頃からか始めていた。
 自分達の弟分を、死なせるわけにはいかないと、そんな思いで。

 足先や背中など、床や壁に触れている部分は冷たかった。けれど、暖かった。
 はぎゅうぎゅうと押しくらまんじゅうのように体をくっつけてくる2人の温もりが好きだった――僅かな間だけでも、昼間の過酷な労働を忘れることができたから。
 やがて静かに眠気が襲ってくる。温もりを感じていたくて瞼をできる限り開けていたが、しかしそれには勝てなかった。
 安心感に疲れも相まって、すとんと落ちるようには眠りに落ちた。


「あー、あったかいなぁ」
 オリオンがの肩に顔を寄せる。早くも規則正しい寝息をたてている彼は、それでも2人の為か引き寄せた足を抱えて小さくなっている。

 ぶつぶつと今日一日の不満や出来事を吐き出していくオリオンの声を聞き流しながら、エレフは無言で体を寄せた。すぐ近くで聞こえる寝息を聞いていると、こちらまで眠たくなりそうだった。
 いい加減満足したのか、ふとオリオンが口を閉じた。ふう、とひとつため息をつく。
「明日は変態神官につかまりませんよーに! おやすみ、、エレフ」
「おう、おやすみ」
 名前を呼ばれ、は小さく身じろぎしたようだった。しかし起きることはなかったので、幾らか安心してエレフは目を閉じた。

 明日も過酷な作業が待ち構えている。どうか、明日も無事に皆で過ごせますように。
 密かな思いを胸に、エレフの意識も眠りに落ちていった。


up 2009/03/26  wrote 2008/12/26
拍手再録。
小さい頃の双子もオリオンも愛しい。