Frimaire

 思い起こせばもう3ヶ月ちょっとローランを見てない。今まで空けても一月だったから、なんというか、ねえ。
 自宅でぼんやりと、冬空の満月見ながら(そして凍えながら)蜜漬けを食べていた。うまい。お供は葡萄酒だ(組み合わせがどうとか言う文句は受け付けてない)。
 まっさかあいつに限って殺されたり、どっかでのたれ死んだりすることはないだろうとは思う。強そうだし。
 緩く風が吹いてきて、冷たい風が頬を撫でる。

 冬は好きだ。空気が澄むからか、夜の空がよく見える。夏の入道雲も好きだけど、残念ながら俺は暑いのが嫌いだ。
 ぽっかり浮かぶ月は何にも考えてなさそうでいいな。ふと思いながら俺はグラスを傾ける。
 ああでも、人間達から勝手にあれこれ感情とか願いを押しつけられるのは煩わしそうだ。

 はあ、とどうでもいい感傷に浸る自分が煩わしい。ああもう、自分がこんなに女々しいヤツだとは思わなかった!
 空になったグラスに葡萄酒を注ぐ。それを半分ほど、一気。

 視線をテーブルに落とすと、さっき注いだときに撥ねたのか、葡萄酒の雫が、月明かりで白く見えるテーブルに散っていた。
 それを指でぬぐう――がぬぐいきれず、する、と紅い跡を引く。

 気分は落ち込み、どうでもいいことばっかり考え始める。気分の重さと言ったら酒樽より重く、落ち込みすぎて冥府まで突破しそう。
 この感情は偽物でなにかの思い違いだったんだろうかー、とか、そもそもありえないとか……。
 何度も繰り返す思考に、どうしようもなく悲観に暮れる。

 俺の馬鹿。
 小さく呟く。呟いたところで誰かがそうだな、とか相づち打ってくれるわけでもない。ただの自己満足だ。
 あいつがさっさと出てくれば、こんな馬鹿な考えの輪に陥らなくても済んだのに。



 雪が、積もった。
 なんかやたらと寒いな、と思ったら積もっていた。うっかり薄着で寝ていた俺は、手足の末端まで冷たくなった。

 雪が積もるともう冬なんだなと思う。それ以前に寒くなるじゃないかと思うかもしれないが、雪があってこその冬だろ? 俺は完全防備の格好で外に出た(新雪に足跡を付けるのは好きだ)。
 やはりというか、視界は白い。完全にではないけれど、大半が雪で白くなっている。うっすら差す太陽の光をやたらに反射して眩しい。
 なにも跡も付いていない雪を見て、そこに飛び込みたくなる衝動を抑える。今飛び込んだら後が大変だ。びしょびしょになってしまう。――と思ったがどちらにせよびしょびしょかもしれない。

 先日の低迷した思考の残留が思考を動かす。
 この白い視界の中ローランがもしやってきたなら、それは雪に血が撥ねたような光景になるのだろうな、と。




up 2009/03/15